この記事は続編です。
この記事は続編です。
先に以下の2つの記事を読むことをおすすめします。


上記の記事では、正診率95%という情報を元に、感度95%、特異度95%と仮定してシミュレーションを行っています。
クラボウのカタログスペックは「陰性判定率:100%」という情報を頂いたので、数値を変えて再シミュレーション。
クラボウ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット(イムノクロマト法)
クラボウは日本の会社。
検査キットは中国からの輸入品。

- IgM抗体検出用キット
- 検体数:538
- 陽性判定率:82.58%
- 陰性判定率:100%
- 正診率:95.72%
- IgG抗体検出用キット
- 検体数:521
- 陽性判定率:76.38%
- 陰性判定率:100%
- 正診率:94.24%
クラボウに問い合わせましたが、陽性判定率・陰性判定率が何をさしているのか正確には把握していないとのこと。
陽性判定率=感度?、陰性判定率=特異度?
陽性判定率=感度、陰性判定率=特異度だと解釈した場合、発熱を基準に270万人を検査したシミュレーションは以下のようになります。
(IgG抗体検出用キットの方を使った場合)
- 新型コロナウイルス感染者:1万人
- 非感染者(ただの風邪):269万人
- 有病率:0.37%(1万人 ÷ 270万人 = 0.0037037037037037)
という想定です。
陽性 | 陰性 | |
---|---|---|
感染している | 7,638 | 2,362 |
感染していない | 0 | 2,690,000 |
- 感度: 感染者を正しく陽性と判定する割合(76.38%、7,638人)
- 特異度: 非感染者を正しく陰性と判定する割合(100%、2,690,000人)
- 偽陽性: 非感染者を誤って陽性と判定する割合(0%、0人)
- 偽陰性: 感染者を誤って陰性と判定する割合(23.62%、2,362人)
陰性判定率が特異度のことをさしているとしたら、特異度100%なので偽陽性の問題は発生しません。
しかし、感染者のうち、4人に1人は検出できずに野放し状態になってしまいます。
発熱がある人は、たとえ検査で陰性が出ても自宅待機が望ましいです。
イムノクロマト法とは?
前記事で、
「血中の抗体を調べるので、まったく感染していないにも関わらず抗体が検出されるとは考えにくい」
「カタログ通りなら、偽陽性は発生しない」
という意見を頂きました。
クラボウのサイトに
「血液中の新型コロナウイルス抗体(IgM,IgG)を迅速に検出します」
と記載があります。
抗体(免疫)は病気が直ってからも数か月~数年は体内に残るものなので、病歴は分かっても、今現在ウィルスに感染しているかどうかは分かりません。
抗体の血中濃度により、ある程度は推測できますが、精度は高くないと思います。
イムノクロマト法とは、抗原抗体反応を利用した検査方法です。
血液中の「抗原(ウイルス)」を、検査キットの「抗体」で捕まえます。
イムノクロマト法の仕組みを大まかに説明すると、
- 検査キットとして長方形(横長)のプレートを用意する
- 検査キットの左端に色素を設置する
- 検査キットの右端に抗体を設置する
(上記の状態で検査キットが販売されている) - 検査キットの左端(色素の所)に血液を垂らす
- 検査キットの右端(抗体の所)に色がついたら陽性
血液の中に「抗原(ウィルス)」が含まれていたら、「抗体」の所に「着色された抗原(ウィルス)」が集まります。
抗体部の色が変わるのでウィルスの存在が分かるわけです。
逆に、血液に抗原(ウィルス)が含まれていない場合は、「抗原&色素」が抗体の所に集まらないので、抗体部の色は変わりません。
厳密にいうと正確ではない表現もありますが、イメージをつかんでもらうことを優先してこのような説明にしています。
血液中の「抗体」を、検査キットの「抗原」で捕まえる逆パターンもあります。
抗原と抗体
抗原というのはウィルスなどの異物です。
抗体は血液の中にある免疫機能の一部です。
抗体が抗原(ウィルス)を捕まえます。
そして、ウィルスを殺す役目のマクロファージや好中球などに抗原を引き渡します。
これが免疫。病気が治る仕組みです。
イムノクロマト法では、「抗体」が「抗原(ウィルス)」を捕まえる機能を利用しています。
(色付き抗原(ウィルス)が抗体の所に集約するので色で分かる)
偽陽性がなぜ起こるのか?
特定の抗原(ウィルス)にだけピンポイントで反応する試薬を作るのって結構難しいはずなんですよ。
目的の抗原に構造が似た別の物質に試薬が反応しちゃうことがあるので。
抗原と抗体は、鍵と鍵穴に例えられることがあります。
基本的には1対1で対応していて、別の鍵だと開かないことになっています。
しかし、非特異反応といって、検査の過程で予想外の反応をしてしまうことがあります。
例えとして適切かは微妙ですが、「練炭自殺の仕組み」を説明します。
- 練炭を燃やすと「一酸化炭素(CO)」が発生します。
- 血液中の赤血球は「酸素(O2)」を取り込まないといけないんですが、間違って赤血球が「一酸化炭素(CO)」を取り込んでしまいます。
- 酸素不足で死にます。
「赤血球」は「酸素」と反応しないといけないのに、誤って「一酸化炭素」と反応してしまう。
同様に、
「試薬」は「新型コロナ」と反応しないといけないのに、誤って「別の何か」と反応してしまうことがありえます。
なんとなくイメージがつかめたでしょうか?
「絶対に『新型コロナ』としか反応しない試薬」を開発できれば、特異度は100%になります。
つまり、偽陽性が発生しなくなります。
「本当にそんな都合のいい薬品がこの短期間で開発できるものなの?」
という疑問は残りますが、技術的にありえなくはないです。
BioMedomics、COVID-19 IgM/IgG Rapid Test
中国製の検査キットのカタログスペックを鵜呑みにしてもいいのか心配だったので、他の検査キットについても調べてみました。
BioMedomicsはアメリカの会社。
COVID-19 IgM/IgG Rapid Test
「lateral flow immunoassays for the diagnosis of coronavirus infection」
「IgM and IgG antibodies」
とソースにあるので、IgM抗体・IgG抗体を用いたイムノクロマト法かな?
血液を垂らして15分待つと測定結果が得られます。
クラボウの簡易検査キットと同等の検査手法と見ていいでしょう。
クラボウの中国製検査キットは、どういう条件で性能テストが行われたのかが不明でしたが、BioMedomicsでは、どういう条件で試験が行われたのか明記されていました。
新型コロナの感染が確定している患者397名から血液を採取、新型コロナに感染していない人間128名からも血液を採取。
計525名の血液が検査キットの性能テストに使用されています。
(先に答えが分かっている状態で、検査キットが患者を正しく判定できるかをテストしています)
感染者397名中、陽性反応(真陽性)が出たのは352名。
感度は88.66%。
非感染者128名、陽性反応(偽陽性)が出たのは12名。
特異度は90.63%。
陽性 | 陰性 | |
---|---|---|
感染している | 352 | 45 |
感染していない | 12 | 116 |
- 感度: 感染者を正しく陽性と判定する割合(88.66%、352人)
- 特異度: 非感染者を正しく陰性と判定する割合(90.63%、116人)
- 偽陽性: 非感染者を誤って陽性と判定する割合(9.37%、12人)
- 偽陰性: 感染者を誤って陰性と判定する割合(11.34%、45人)
BioMedomics、270万人シミュレーション
BioMedomicsの検査キットで、発熱を基準に270万人を検査した場合のシミュレーションは以下のようになります。
陽性 | 陰性 | |
---|---|---|
感染している | 8,866 | 1,134 |
感染していない | 252,053 | 2,437,947 |
- 感度: 感染者を正しく陽性と判定する割合(88.66%、352人)
- 特異度: 非感染者を正しく陰性と判定する割合(90.63%、116人)
- 偽陽性: 非感染者を誤って陽性と判定する割合(9.37%、12人)
- 偽陰性: 感染者を誤って陰性と判定する割合(11.34%、45人)
感度が88.66%なので、感染者の10人に1人は発見できずにスルーしてしまいます。
また、陽性的中率は3.40%です。
(8,866人 ÷ (8,866人 + 252,053人) = 0.0339798941433932)
感染者1人を見つけるのに、偽感染者が28人発生する割合です。
感度88.66%、特異度90.63%。
前記事の感度95%、特異度95%という仮定よりも精度が低いのでさらに偽陽性が発生しやすいです。
また、偽陰性で感染者を野放しにしてしまう可能性も結構高いです。
別の資料も紹介。
以下の論文では、感染者397名、非感染者128名に試験して、感度88.66%、特異度90.63%だったと書いてあります。
BioMedomicsの検査キットと数値がぴったり一致するので、同じ検査キットを使っているのではないかと思われます。
Development and Clinical Application of A Rapid IgM-IgG Combined Antibody Test for SARS-CoV-2 Infection Diagnosis

Novazym、Wuhan Coronavirus Rapid Test (2019-nCoV, Covid-19) IgG/IgM
Novazymはポーランドの会社。
Wuhan Coronavirus Rapid Test (2019-nCoV, Covid-19) IgG/IgM

「Wuhan Coronavirus (2019-nCoV, Covid-19) IgG/IgM Rapid Test」
「immunochromatographic assay」
「1 drop of whole blood (about 10 μL)」
「The result should be read in 15 minutes」
とソースにあります。
IgG/IgM抗体を使ったイムノクロマト法。
1滴の血液から15分で検査が出る。
とのことなので、クラボウやBioMedomicsと同じ検査手法とみなしていいでしょう。
性能は、
- IgM抗体検査キット
- 感度: 95.7%
- 特異度: 97.3%
- IgG抗体検査キット
- 感度: 91.8%
- 特異度: 96.4%
何人分のサンプルを使って検証をしたのかは分かりませんでした。
Novazym、270万人シミュレーション
Novazymの検査キットで、発熱を基準に270万人を検査した場合のシミュレーションは以下のようになります。
(IgG抗体検査キットの場合)
陽性 | 陰性 | |
---|---|---|
感染している | 9,180 | 820 |
感染していない | 96,840 | 2,593,160 |
- 感度: 感染者を正しく陽性と判定する割合(91.8%、9,180人)
- 特異度: 非感染者を正しく陰性と判定する割合(96.4%、2,593,160人)
- 偽陽性: 非感染者を誤って陽性と判定する割合(3.6%、96,840人)
- 偽陰性: 感染者を誤って陰性と判定する割合(8.2%、820人)
感度が91.8%なので、感染者の10人に1人は発見できずにスルーしてしまいます。
また、陽性的中率は8.66%です。
(9,180人 ÷ (9,180人 + 96,840人) = 0.0865874363327674)
感染者1人を見つけるのに、偽感染者が11人発生する割合です。
感度91.8%、特異度96.4%。
前記事の感度95%という仮定よりも感度が低いので、偽陰性(感染者を発見できずにスルー)の確率は上がります。
逆に、特異度は前記事の95%という仮定よりも性能が良いです。
検査キットの性能比較
クラボウ
- クラボウ、IgM検査キット
- 感度: 82.58%
- 特異度: 100%
- 偽陽性: 0%
- 偽陰性: 17.42%
- クラボウ、IgG検査キット
- 感度: 76.38%
- 特異度: 100%
- 偽陽性: 0%
- 偽陰性: 23.62%
BioMedomics
- BioMedomics、検査キット
- 感度: 88.66%
- 特異度: 90.63%
- 偽陽性: 9.37%
- 偽陰性: 11.34%
Novazym
- Novazym、IgM検査キット
- 感度: 95.7%
- 特異度: 97.3%
- 偽陽性: 2.7%
- 偽陰性: 4.3%
- Novazym、IgG検査キット
- 感度: 91.8%
- 特異度: 96.4%
- 偽陽性: 3.6%
- 偽陰性: 8.2%
まとめ
検査キットによって検査精度が大きく違いますね。
クラボウは特異度にステータス全振りって感じがします。
偽陽性が発生しない代わりに、4人に1人は感染者を見逃す。
それって検査としてどうなの?
Novazymが一番性能バランスが良い気がします。
ポーランドに医療大国のイメージがないんですが、技術的にはどうなんでしょう?
BioMedomicsは性能はそこまで良くないですが、臨床数が具体的に書かれていてデータの信ぴょう性は一番高いかなと思います。
3社の検査キットが、商業的に日本国内で入手可能か、また入手したとして利用することが違法とならないかについては当方では把握しておりません。
各社に直接お問い合わせください。
続編もあります。

コメント
現状、陽性判定されたら軽症、無症状でも入院。
偽陽性が1000人も出たらベッドがなくなる。
そこで偽陽性ゼロに特化した自己満足用検査キット開発。
と、想像してみた。
執筆お疲れ様です。
この記事は前記事の問題点をカバーして、とても素晴らしい記事だと思います。
特にクラボウに問い合わせた点は、クラボウ自身の商品への無理解も端的に表していて良いです。
前記事のコメントでデマではないかと指摘しましたが、撤回します。失礼しました。