日銀の金融緩和政策の終焉と円高の影響

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日本銀行(日銀)は、10年以上にわたって続けてきた金融緩和政策を終了する方向で動いている。これは、世界的な物価上昇の影響で欧米の中央銀行が金融引き締めに転じたことに対応するためだ。日銀の政策転換は、円高をもたらし、日本経済に大きな影響を与えると予想される。この記事では、日銀の金融緩和政策の歴史と現状、そして円高がもたらす「儲かる人」と「損する人」について解説する。

日銀の金融緩和政策の歴史と現状

日銀の金融緩和政策は、2013年4月に黒田東彦前総裁が導入した「量的・質的金融緩和」が始まりだった。この政策は、国債の大量買い入れによって日銀の保有国債残高を年間80兆円増加させることを目標とした。これによって、日銀の国債保有残高は、2012年度末の93.9兆円から2022年度末には576.1兆円にまで膨らんだ。国債発行残高に占める日銀の保有割合も、同期間に11.5%から53.3%に急上昇した。

日銀の国債買い入れは、長期金利をゼロ%程度に誘導する「長短金利操作(YCC)」という政策によって実施されている。YCCは、2016年9月に導入された政策で、日銀が市場で国債を買い入れる量を決めるのではなく、長期金利の水準を目標とするというものだった。これによって、日銀は国債の買い入れ額を柔軟に調整できるようになった。

しかし、2022年に入ってから、日銀は国債の買い入れを大幅に増やすことになった。その背景には、世界的な物価上昇の影響で欧米の中央銀行が金融引き締めに動いたことがある。これによって、日本の長期金利にも上昇圧力がかかり、日銀はこれを抑えるために国債を買い入れたのだ。その結果、2022年の国債買い入れ額は、前年の73.6兆円から111.1兆円にまで増えた。

日銀は、このようにして金融緩和政策を維持してきたが、その限界に達しつつある。日銀の国債保有残高は、国内総生産(GDP)の約100%に相当する水準に達しており、国債市場の機能が低下するリスクが高まっている。また、金融緩和政策によって円安が進んだことで、日本国内の物価は上昇を続けており、家計や企業の負担が増えている。さらに、欧米の中央銀行が金融引き締めに転じたことで、日銀の政策の持続性に疑問が生じている。

これらの理由から、日銀は金融緩和政策の終了に向けて動き出すと見られている。筆者は、12月18・19日の金融政策決定会合で、日銀の植田総裁は、YCCのさらなる柔軟化はもとより、ゼロ金利政策の終了にまで踏み込む可能性があると見ている。

円高がもたらす「儲かる人」と「損する人」

日銀が金融緩和政策を終了すると、円高が進むと予想される。円高は、日本経済にとってメリットとデメリットがある。ここでは、円高がもたらす「儲かる人」と「損する人」について見ていこう。

儲かる人

輸入企業

円高は、輸入コストを下げる効果がある。そのため、原材料や商品を海外から輸入する企業にとっては、利益率が上がる可能性がある。例えば、家具やインテリア用品を海外から輸入するニトリホールディングスは、円高によってコストを抑えることができるだろう。

海外旅行者

円高は、海外旅行の費用を安くする効果がある。そのため、海外旅行をする人にとっては、予算を節約できる可能性がある。例えば、1ドル130円になれば、1万円で約77ドル分の現地通貨が手に入ることになる。これは、1ドル150円のときよりも約13ドル分多いことになる。

家計

円高は、物価上昇を抑制する効果がある。そのため、家計にとっては、生活費の負担が軽減される可能性がある。例えば、エネルギーなどの輸入物価は、円高によって下がることが期待できる。これは、電気やガスなどの光熱費や、ガソリンなどの燃料費に反映されるだろう。

損する人

輸出企業

円高は、輸出収入を減らす効果がある。そのため、海外に商品を輸出する企業にとっては、利益率が下がる可能性がある。例えば、自動車や部品を海外に輸出するトヨタやデンソーは、円高によって競争力が低下することになるだろう。

海外投資家

円高は、海外資産の価値を減らす効果がある。そのため、海外の株式や債券などに投資している人にとっては、為替差損を被る可能性がある。例えば、1ドル150円で購入した米国株式が、1ドル130円になったときに売却した場合、株価が変わらなくても約13%の損失が出ることになる。

日本株投資家

円高は、日本株の収益性を低下させる効果がある。そのため、日本株に投資している人にとっては、株価の下落や配当の減少を見込む必要がある。例えば、輸出企業の株式は、円高によって業績が悪化することから売られやすくなるだろう。また、金融機関の株式は、金利の低下によって収益が減ることから売られやすくなるだろう。

まとめ

日銀は、10年以上にわたって続けてきた金融緩和政策を終了する方向で動いている。これは、世界的な物価上昇の影響で欧米の中央銀行が金融引き締めに転じたことに対応するためだ。日銀の政策転換は、円高をもたらし、日本経済に大きな影響を与えると予想される。円高は、輸入企業や海外旅行者や家計にとってはメリットとなるが、輸出企業や海外投資家や日本株投資家にとってはデメリットとなる。日銀の政策転換は、日本経済の構造変化を促すことになるだろう。

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