プロ野球、オリックスから大リーグへの移籍を目指していた山本由伸投手が、ドジャースとピッチャーとしては大リーグ史上最高額の契約となる12年総額3億2500万ドル、日本円でおよそ463億円で合意したとアメリカの複数のメディアが伝えました。これにより、来シーズンからは先日、ドジャースに入団した大谷翔平選手とチームメートになります。
山本由伸 投手として大リーグ史上最高額の契約か
山本投手は25歳。今シーズン、16勝6敗、防御率1.21、169奪三振をマークして3年連続で沢村賞とMVP=最優秀選手を受賞するなど、オリックスのリーグ3連覇に大きく貢献しました。
山本投手はシーズン終了後、ポスティングシステムを使った大リーグ移籍に向けて手続きを進め、先月21日から大リーグの30球団と45日間の交渉が解禁されると先発投手の需要が高いことしの大リーグの移籍市場の中で大谷選手に次ぐ高い関心を集めました。
そして、アメリカの複数のメディアは21日、山本投手がドジャースと12年総額3億2500万ドル、日本円でおよそ463億円の契約で合意したと伝えました。これはゲリット・コール投手がヤンキースと結んだ9年総額3億2400万ドルを上回り、ピッチャーとしては大リーグ史上最高額だということです。
アメリカのメディアは山本投手とドジャースの交渉の席に先日、入団したばかりの大谷選手が同席したなどと伝えていて、来シーズンからはWBC=ワールド・ベースボール・クラシックでも活躍した日本のトップ選手2人がチームメートとしてワールドシリーズ優勝を目指すことになりました。
大型契約に至った背景
このオフの移籍市場で大谷選手に次ぐ注目度だった山本投手ですが、ここまでの大型契約に至った背景はなんだったのでしょうか。
25歳の若さと先発投手の需要の高さ
まず、ことしの移籍市場は先発投手の需要が極めて高かったことが前提にありました。中でも、ドジャースやヤンキース、メッツ、レッドソックスといった豊富な資金力を持つ球団が先発投手を欲していたという事情も手伝い、25歳の若さでプロ野球で圧倒的な実績を残している山本投手の評価が大きく高まりました。
12年契約は投手としては異例の長期契約で、大谷選手がピッチャーとして復帰予定の2025年以降は、大谷選手とともに先発ローテーションの「2枚看板」として長く活躍してほしいというドジャースの期待度の高さがあらわれています。
WBCでも活躍(3月)
山本投手はことし3月のWBC=ワールド・ベースボール・クラシックで日本の優勝に貢献し、大会の公式球として使われた大リーグ特有の滑りやすいボールへの対応力も証明して見せました。
WBCと“千賀効果”
また、大リーグでは去年、千賀滉大投手がメッツと5年総額7500万ドル、当時のレートでおよそ102億円の契約を結びましたが、千賀投手は今シーズン、12勝7敗、防御率はリーグ2位の2.98、202奪三振をマークするなど大リーグ1年目からメッツ投手陣の柱として活躍しました。千賀投手の契約についてアメリカのメディアは「彼がこの1年残したものを見ればメッツにとってはかなりお買い得な契約だった」などと伝え、千賀投手のめざましい活躍が大リーグに挑戦する日本投手への信頼や期待値をさらに押し上げたと考えられます。
ドジャースのロバーツ監督と大谷選手
ドジャースにとっては大谷選手が年俸のほとんどを後払いにしたことが、結果的に山本投手の補強費用を工面できた最大の理由となりました。
大谷選手は年俸7000万ドルのうちのおよそ97%を後払いにすることをみずから球団に申し入れ、毎年受け取る年俸を200万ドルに抑えました。この結果、書類上は大谷選手の年俸は毎年4600万ドルとして計上されることになり、ドジャースは毎年2400万ドル分をほかの選手を獲得するための補強費にまわすことができるようになっていました。結果的にドジャースは大谷選手との異例の契約に後押しされる形で、このオフの移籍市場で最大の注目だった2人を獲得することに成功しました。
大谷選手のプロスポーツ史上最高額となる10年総額7億ドルの大型契約を結んだことが記憶に新しい中、今回、山本投手が12年総額3億ドルというこちらも大型契約となりました。
山本由伸投手の3年連続4冠の快挙と大リーグへの挑戦
プロ野球で史上初めて3年連続で先発投手の主要タイトル4冠の快挙を成し遂げた山本由伸投手は、大リーグへの移籍を目指しています。背景には“大切にしてきた心構え”と“変化を恐れずひたむきに取り組む姿勢”がありました。
今シーズンも先発投手の4冠を手にした山本投手は「続けて活躍することはすごく難しいことなので、3年連続で獲得できたことに“自分の成長を感じる”」と心境を語りました。
この“自分の成長を感じる”という言葉にこれまでの生き方が凝縮されていました。
山本投手が幼いころから大切にしてきた心構えが“去年の自分を超える”。
当時を振り返り「去年、達成したことは、ことしも出来て当たり前。小学5年生より6年生、6年生より中学1年生と考えていた」と日々、みずからに進化を求めて努力を重ねた山本投手はプロに入って実績を挙げても変化を恐れず、みずからのフォームの進化に挑戦してきました。
フォームの変更とその効果
ルーキーの2017年にプロ初勝利を挙げたあと、2年目には左腕の動きをキャッチャーに向けてまっすぐ伸ばす、今の投げ方に近い形に変えるなどフォームを変更しました。
ことし大きく変えたのは、投球時の左足の動きです。
昨シーズンまでは、左足を上げて90度に曲げ、軸足である右足に一度、体重を乗せて静止したあと左足を踏み込んで投げていました。
今シーズンは、左足をまっすぐ伸ばしたまま動きを止めずにマウンドとほぼ平行にして滑らせるようにして踏み込んで投げる形に変更しました。
山本投手は「いろんなトレーニングをしている中で、よいと思ったものを繰り返していて、その延長線上でたどり着いたものだ」と明かしました。
その効果は成績からもうかがい知ることができます。
9イニングの間に何個、フォアボールを与えたかを示す「与四球率」は
▽おととし(2021年)のシーズンは1.86
▽昨シーズン(2022年)は1.96でしたが
▽今シーズン(2023年)は1.54となり、プロ7年目で自己最高の成績となりました。
さらに「防御率」は1.21をマークし、こちらも自己最高となりました。
沢村栄治さんの投球動画に自信
今シーズンもほかの投手を圧倒する成績を残した山本投手が、フォームを変更したあとに偶然にも目にした映像があの沢村栄治さんが投球する姿でした。
沢村栄治さんは、先発・完投型の本格派投手を対象にした賞「沢村賞」の名前の由来となった戦前、巨人のエースとして活躍した伝説の投手です。
山本投手が見た動画では、沢村さんが左足を高く上げずに伸ばすような形で投げていて、同じようなフォームだと感じたということです。
山本投手は「動画を見て『自分のフォームは間違ってなかったのかな』と思うことができた」と自信につなげていたことを明かしてくれました。
それでも「新しいフォームはよい点も反省すべき点も双方あった。今シーズンの形を生かしながらさらにレベルアップしたい」と早くも次を見据えています。
大リーグへの挑戦と決意
新たな目標に向けて“自分を超える”心構えを変わらず抱き続ける山本投手は、大リーグへの移籍を目指しています。
山本投手のピッチングをチェックしようと登板した試合には多くの大リーグの球団関係者が視察に訪れていました。
ことし9月9日、2年連続のノーヒットノーランを達成した、千葉市にあるZOZOマリンスタジアムでのロッテとの試合では、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンゼネラルマネージャーや、大谷選手の所属するエンジェルスなど、大リーグの球団関係者が数多く訪れました。
この試合のあと山本投手は「注目していただけることはうれしいし、いい結果が出たのでよかった。もっともっと頑張って、もっともっといいボールを投げられるようにしたい。高みを目指して練習するのはぶれずにできてるので、それがいい方向に行ってるかなと思う」と話していました。
また、関係者によりますと次の登板となった9月16日、京セラドーム大阪で行われた楽天戦では、大リーグの9つの球団の関係者が球場を訪れたということです。
山本由伸投手のドジャース移籍に地元からは祝福の声
オリックスから大リーグのドジャースに移籍した山本由伸投手に対して、地元の岡山県やオリックスの本拠地の大阪、そしてロサンゼルスからは祝福や期待の声が聞かれました。
少年野球時代の恩師「けがなく頑張ってほしい」
山本投手が小学生のときに所属していた岡山県備前市の少年野球チーム「伊部パワフルズ」で監督を務め、現在は後援会長の大饗利秀さんは「寒いところが苦手だと言っていたので、そういうことも含めて選んだ気がするし、いちばんいい選択をしたと思う。山本投手と大谷翔平選手が投げて、ワールドシリーズで優勝するのを想像できることがうれしい」とドジャースへの移籍を喜んでいました。
そして「1年くらい前に、大リーグについて話したことがあるが、『もう目の前まで来ている』と話していて、本人もやれるという自信を感じていたと思う。プロ野球の世界に入って誰も想像していないような成績を残したので、この先、まだまだ飛躍してくれると思っている。報道によると、12年契約ということで日本に帰ってくることはなさそうなので、遠くに行ってしまって寂しい気持ちも正直あるが、けがなく頑張ってほしい」とエールを送っていました。
JR岡山駅前では号外
JR岡山駅前では、22日午後3時半ごろから「山本 ドジャースへ」と大きく書かれた新聞の号外が配られました。
受け取った倉敷市の70代の男性は「大谷選手と同じチームということで、びっくりしている。岡山県人として誇りに思う。15勝くらいしてほしい」と話していました。
岡山市の20代の男性は「自分も同じ備前市出身なので、頑張ってほしい。大谷選手と抱き合うところを見てみたい。タイミングが合えば、一度は生で見に行きたい」と話していました。
岡山市の40代の女性は「契約金額のケタが違いすぎて、想像ができない。地元で野球をする子どもたちにもいい刺激になるのではないかと思う」と話していました。
高校2年の男子生徒は「岡山からメジャーリーガーが出るのはうれしいが、日本で12年間見られないのは少しさみしい。大谷選手と切磋琢磨して優勝を目指してほしい。MVPの投票などで大谷選手と競ってほしい」と話していました。
オリックスの本拠地近くでは喜びの声
オリックスの本拠地、京セラドーム大阪の近くにある大阪 西区の商店街「ナインモール九条」では、ファンから喜びの声が聞かれました。
喫茶店を営む60代の男性は「正直、びっくりしました。アメリカでもきっと大投手になると思います。日本の野球をアメリカで見せつけてほしい」と期待している様子でした。
洋品店で働く60代の女性は「おめでとうございます。大谷選手と一緒に頑張ってほしいです。2人で切磋琢磨(せっさたくま)して、どんどん成長してもらえたらいい。かげながら地元商店街として応援しています」と話していました。
ロサンゼルスでは期待の声
ロサンゼルス中心部にあるドジャースのグッズを販売するオフィシャルショップでは、最近入荷したという背番号17番を付けた大谷翔平選手のユニフォームが次々と売れていました。
その大谷選手に続いて山本由伸投手との契約に合意したと伝えられたことについてショップを訪れた男性のファンは、「日本の2人の偉大な選手を迎えることができて最高に興奮しています。来年は山本投手のピッチングに大いに期待しています」と話していました。
また別の男性ファンは「山本投手はそれほど大柄ではないがすばらしい速球を持っている。これでドジャースは怖いものなしで、ワールドシリーズ優勝は間違いない」などと来年のドジャースの躍進に期待を寄せていました。
山本由伸の成績
プロ野球、オリックスでの7年間の主な成績とタイトル
シーズン成績
- 2017年
5試合 1勝1敗/投球回23.2/奪三振20/防御率5.32 - 2018年
54試合 4勝2敗1セーブ36HP/投球回53/奪三振46/防御率2.89 - 2019年
20試合 8勝6敗/投球回143/奪三振127/防御率1.95
最優秀防御率 - 2020年
18試合 8勝4敗/投球回126.2/奪三振149/防御率2.20
最多奪三振 - 2021年
26試合 18勝5敗/投球回193.2/奪三振206/防御率1.39
MVP(最優秀選手)、沢村賞、ベストナイン、最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振 - 2022年
26試合 15勝5敗/投球回193/奪三振205/防御率1.68
MVP、沢村賞、ベストナイン、最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振 - 2023年
23試合 16勝6敗/投球回164/奪三振169/防御率1.21
MVP、沢村賞、ベストナイン、最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振、
「日本シリーズ」1試合の最多奪三振記録を更新(第6戦・14奪三振)
通算成績
172試合 70勝29敗1セーブ 36HP/投球回897/奪三振922/防御率1.82
獲得タイトル
- MVP3回
- 沢村賞3回
- ベストナイン3回
- 最多勝3回
- 最優秀防御率4回
- 最高勝率3回
- 最多奪三振4回
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