新型コロナウイルス、「基本再生産数」と「実効再生産数」の違い
【基本再生産数と実効再生産数について】
病原体の感染力を示す『基本再生産数』と、対策の実行状況を反映する『実効再生産数』についてまとめました。
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— 新型コロナクラスター対策専門家 (@ClusterJapan) April 30, 2020
「基本再生産数」や「実効再生産数」の意味や考え方、両者の違いについて解説します。
基本再生産数
ある感染症に対して免疫を持たない集団において、1人の感染者が全感染期間に新たに感染させる平均の人数のことを基本再生産数と言い、感染症を引き起こす病原体の感染力を示します。人口密度や人の接触のパターンが異なる場合は、地域により基本再生産数の値は異なります。
再生産数とは、感染症(菌・ウィルスなど)が持つ拡散力のことです。
1人の感染者が何人にうつすかという数値です。
たとえば、1人の感染者が3人ずつに感染させると、再生産数は3です。
特に基本再生産数と言った場合は、免疫を持たない集団の中での再生産数のことをいいます。
地域差
地域によって基本再生産数は異なります。
たとえば、
- 自給自足で生活している
- 隣の家まで10km離れている
- 他者との交流がほとんどない
みたいな環境だと、他者へ感染させる機会が少ないです。
よって、「基本再生産数」が小さくなります。
逆に人口密度が高く、人との接触機会が多い都会では感染リスクが高いです。
つまり、ウィルス自体の性能は同じでも、条件によって基本再生産数が異なります。
基本再生産数は、以下の2点が影響します。
- ウィルス自体のステータス
- 地域特性による補正
実効再生産数
「実行再生産数」ではなく「実効再生産数」です。
漢字間違いに注意。
ある時点で、1人の感染者が全感染期間に新たに感染させる平均の人数のことを実効再生産数と言い、対策の実行状況により変動します。
実効再生産が低下する要因には、人々が病原体に免疫を持つこと、人々の行動(手洗いやマスクなどの感染予防、接触を減らすなど)の変容があげられます。
「基本再生産数」がウィルスの「攻撃力」だとすると、「実効再生産数」は人間の「防御力」を差し引いた実質的な「ダメージ」みたいなものです。
たとえば、日本人全員が質の高いワクチンを接種して、全員が免疫を獲得済みだとします。
そういった状況では、ウィルス自体の感染能力が高かったとしても、実質的には感染が広がらないので「実効再生産数」が0になります。
また、手洗い・うがい・マスクなどの予防行動をすることでも感染確率を下げることができ、「実効再生産数」が下がります。
ウィルス自体の攻撃力を下げることはできないけれど、
「人間側の防御力を上げることで対抗する」
というのが現在の新型コロナウイルスへの対抗策ですね。
実効再生産数を1未満にする
実効再生産数が1
「実効再生産数」が1だと、新規の感染者数が横ばいになります。
再生産数というのは、1人の人が感染してから完治または死亡するまでの間に何人にうつすかという数字です。
実効再生産数が1の場合、1人の人が治ったと思った頃には、別の感染者が1人増えているわけです。
今現在感染中の人が100人いたら、2週間後には元の100人は治っているけど、新しく別の100人が感染しているような状態になります。
よって、感染者数が横ばいの状態が続きます。
実効再生産数が1より大きい
「実効再生産数」が1より大きいと感染が拡大します。
たとえば、「実効再生産数」が2で、現在の感染者が100人だったとしたら
- 現在の感染者数: 100人
- 2週間後: 200人
- 4週間後: 400人
- 6週間後: 800人
- 8週間後: 1600人
- 10週間後: 3200人
…
…
というように倍々ゲームで感染が爆発します。
(2週間ずつ区切っているのはなんとなくです。実際には1週間ごとだったり3日ごとに倍々で増えていく可能性も)
実効再生産数が1より大きいと、回復する人の数よりも、新規感染者数の方が多くなります。
つまり、感染者が増える、増加した感染者がさらに感染を拡大させるという悪循環になります。
実効再生産数が1より小さい
「実効再生産数」が1より小さいと感染は縮小します。
たとえば、「実効再生産数」が0.5で、現在は100人の感染者がいたとします。
- 現在の感染者数: 100人
- 2週間後: 50人
- 4週間後: 25人
- 6週間後: 12人
…
…
上記のように、感染者数が段々と減っていきます。
実効再生産数が1よりも小さいと、感染者数が減る、感染者が減ると感染リスクが小さくなりさらに感染者が減る。
そして理論上は、最終的に感染者が0になります。
新型コロナウイルス、日本の実効再生産数
新型コロナウイルス、基本再生産数
WHO(世界保健機関)によると、新型コロナウイルスの「基本再生産数」は1.4~2.5となっています。
- 基本再生産数: 1.4~2.5
新型コロナウイルス、実効再生産数(日本)
- 全国
- 3/25: 2
- 4/10: 0.7
- 東京都
- 3/14: 2.6
- 4/10: 0.5
3月時点では「実効再生産数」が2を超えていて、爆発的に感染が拡大するリスクがありました。
しかし、4月になり「実効再生産数」が全国で0.7、東京都で0.5となっています。
「実効再生産数」が「1未満」なので、感染拡大の抑え込みに成功している状態です。
- 実効再生産数: 0.5~0.7
感染力、東京は「0・5」、全国は「0・7」に 目安の“実効再生産数”
外出自粛と実効再生産数
「基本再生産数」はウィルス自体がもつ「拡散力」です。
WHOの発表では、新型コロナウイルスの「基本再生産数」は1.4~2.5です。
日本は狭い国土の割に人口が多いので、感染が拡大しやすい地域特性だと考えられます。
現在は、自粛の効果によって「実効再生産数」は0.5~0.7程度にまで抑え込まれています。
しかし、よく考えてみると、人との接触を減らしたことで人間側の防御力を上げてはいるものの、ウィルス自身の拡散力である「基本再生産数」は1.4~2.5のままです。
つまり、自粛を解いて人間の防御力が下がると、また「実効再生産数」が2くらいまで増える可能性が高いです。
では、外出自粛に意味はないのか?
そんなことはありません。
たとえば、元の感染者が1万人の状態だとします。
外出自粛を解いて「実効再生産数」が2の状態になると、1~2週間後には感染者が2万人に増えます。
しかし、元の感染者が1人の状態まで減らしておけば、外出自粛を解いて「実効再生産数」が2になっても、1~2週間後には感染者が2人しか増えません。
つまり、外出自粛中にウィルス保有者の数を減らしています。
ウィルス保有者の数が減れば、自粛を解禁して「実効再生産数」が増えたときの影響度が違います。
実効再生産数を下げる3つの方法
実効再生産数を下げる主な手段は以下の3つ
- 外出自粛
- 手洗い・うがい・マスク
- 免疫獲得(ワクチン)
外出自粛は、そもそもウィルスとの接触機会を無くすことで感染しないようにする方法です。
手洗い・うがい・マスクは、ウィルスとは接触するけれど、体内へのウィルス侵入を極力減らす方法です。
免疫獲得は、予防接種(ワクチン)により、ウィルスと接触しても感染・発症しなくする方法です。
いまは「外出自粛」と「手洗い・うがい・マスク」で耐えている状態ですね。
ワクチンを開発して免疫を獲得しない限りは、自粛生活は続くと思われます。
もしくはウィルス保有者の母数が減れば、多少の「実効再生産数」増加は許容できるようになります。
現在は「実効再生産数」を0.5~0.7の水準まで下げることに成功していますが、0.9くらいまでなら増えても問題ないかもしれません。
そうなれば、「旅行は自粛するけれど飲食店の営業はOK」みたいに段階的に自粛が解禁されるかも。
(あくまでも「かもしれない」です)
集団免疫
みんなが免疫を獲得して、うつす相手がいなくなれば「実効再生産数」が小さくなり、伝染病は終息します。
この、「みんなが免疫を獲得した」状態のことを「集団免疫」といいます。
スウェーデンでは、
「みんな感染してみんなが免疫を獲得すれば勝手に終息するでしょ」
という考えのもと、外出自粛などは行わず通常の生活を送っています。
スウェーデン
人口:1023万人
感染者:18900人
死者:2274人日本
人口:12650万人
感染者:13852人
死者:389人100万人あたりの死者数
スウェーデン:222人
日本:3人人口あたりで見ると
スウェーデンは日本の74倍も死んでますねhttps://t.co/a2tgzS0r0X— にゃんぷん@うちですごそう (@nyanpunkan) April 29, 2020
スウェーデンがノーガード戦法で集団免疫を獲得しようとした結果、人口当たりの死者数は日本の74倍となっています。
(2020年4月29日時点)
- 100万人あたりの死者数
- スウェーデン:222人
- 日本:3人
スウェーデンは一見頭がおかしいように見えるんですが、まだ分かりません。
たとえば、有効なワクチンが開発できないまま自粛がずるずる続いたとします。
すると、
「日本は数年間自粛生活をつづけた挙句に、ゆるゆると全人口の5%が死滅」
みたいなシナリオがありえるからです。
それならば、スウェーデンみたいに一気に感染を拡大させて、一気に死なせて、速めに終息した方が経済的なダメージが少ないです。
あくまでも、「人口比での死亡率が最終的に同じになるならば」の話ですけどね。
ノーガード戦法だと医療崩壊で死亡率が増えそうなんで、日本の選択は間違っていないと思います。
それに、ワクチンもいずれは開発されるでしょうし。
まとめ
感染症の「再生産数」とは、1人の感染者から何人の感染者にうつるかという数字です。
「基本再生産数」とは、ウィルス自体が持つ感染拡大力。
ノーガードのときに、「再生産数」がいくつになるかという数字です。
「実効再生産数」とは、人間側の対策を差し引いたときのウィルスの感染能力(再生産数)です。
人と人の接触機会を減らしたり、免疫を獲得したり、手洗い・うがい・マスクで予防することで、感染者数を減らします。
「実効再生産数」が1だと、感染者数は横ばい。
「実効再生産数」が1より大きいと、感染者数が増加。
「実効再生産数」が1より小さいと、感染者数が減少。
新型コロナウイルスの日本における「実効再生産数」は以下の通りです。
外出自粛前は、
- 実効再生産数: 2~2.6
外出自粛後は、
- 実効再生産数: 0.5~0.7
外出自粛の効果は表れています。
しかし、新型コロナウイルス自体の能力(基本再生産数)が下がったわけではないので、自粛を解くと「実効再生産数」は増加します。
現在は、ワクチンができるまでの時間を稼いでいる段階です。
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