この記事は続編です。
この記事は以下の3つの記事の続編です。
前の記事は読まなくても、今日の話は理解できると思います。
イムノクロマト法とは?
前回の記事では、イムノクロマト法は血液中の「抗原」を調べるものだと書いたのですが、
血液中の「抗体」を調べる場合もイムノクロマト方法と呼ぶようです。
イムノクロマト法は、「抗原抗体反応」を使った検査の総称で、
- 検体中の「抗原」を、検査キットの「抗体」で捕捉
- 検体中の「抗体」を、検査キットの「抗原」で捕捉
どちらのパターンもあるみたいです。
前の記事で紹介したクラボウ他の3社は、血中抗体の有無を検査キットの抗原でマーキングしているようです。
迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価
SARS-CoV-2遺伝子増幅法により確定されたCOVID-19患者血清の残余検体(37症例、87検体)を用いて、市販のイムノクロマト法による抗体検出試薬による発症後日数ごとの抗体陽性率を調査した
NIID 国立感染症研究所
迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価ウイルス性出血熱とは、エボラ出血熱,マールブルグ病,ラッサ熱,クリミア・コンゴ出血熱の4種類をさします。個々の疾病については、以下のメニューから選ぶことができます。
国立感染症研究所(NIID)に、簡易検査キットの評価データがありました。
新型コロナウイルスの感染が確定している37人を対象に、日を変えて87回検査をしています。
おそらく、こんな流れで簡易検査キットの性能評価をしています。
- PCR検査で陽性が出る
- 患者に聞き取り調査を行い症状が何日前から現れたか確認する
- 簡易検査キットで検査をする、Day◯の検体数としてカウント
- 数日後に簡易検査キットで再検査、Day◯の検体数としてカウント
発症後13日以上経過すると、簡易検査キットでもそこそこの精度で感染の有無を検知できることを発見。
発症後日数ごとの抗SARS-CoV-2 IgM, IgG抗体陽性率
発症後日数 | IgM抗体 | IgG抗体 | IgM抗体 もしくは IgG抗体 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
検体数 | 陽性数 | 陽性率(%) | 検体数 | 陽性数 | 陽性率 (%) | 検体数 | 陽性数 | 陽性率 (%) | |
Day 1 – 6 | 14 | 0 | 0.0 | 14 | 1 | 7.1 | 14 | 1 | 7.1 |
Day 7 – 8 | 20 | 2 | 10.0 | 20 | 5 | 25.0 | 20 | 5 | 25.0 |
Day 9 – 12 | 21 | 1 | 4.8 | 21 | 11 | 52.4 | 21 | 11 | 52.4 |
Day 13 – | 32 | 19 | 59.4 | 32 | 31 | 96.9 | 32 | 31 | 96.9 |
最終的に陽性率が96.9%となっています。
感染が確定している人だけを対象に行った試験なので、陽性率=感度=96.9%ですね。
感度とは、感染者を検査したときに、正しく感染者と判定できる割合です。
注目してほしいのは、感染後の経過日数ではなく、発症後の日数であるところ。
「Day1-6」のデータを見ると、陽性率が7.1%しかありません。
潜伏期間の間は検出できないという話はよく聞きますが、症状が表れてから数日経過した状態でも、かなり検出率は低いようです。
新型コロナウイルス、発病直後では感染の有無を検知できない
志村けんさんのケースでは、症状が以下のように進みました。
- 3月17日(1日目):倦怠感
- 3月19日(3日目):発熱・呼吸困難
- 3月20日(4日目):肺炎の診断、入院
- 3月23日(7日目):PCR検査で陽性を確認
- 3月29日(13日目):死亡
倦怠感を感じた日をDay1とすると、発熱1日目はDay3、発熱4日目はDay6に相当します。
前述のデータによると、Day6の陽性率は7.1%です。
発熱4日目を基準に検査をしても、感染の有無は7.1%の精度でしか発見できないということですね。
(感染が確定している人に対して検査をして、そのうち7.1%しか発見できない)
感染していても、症状が進行していない状態では、簡易検査キットは役に立たないということです。
志村さんがPCR検査で陽性と判断されたのは倦怠感を感じてから7日目。
簡易検査キットだと、Day7の陽性率は25%となっています。
この段階ですら、簡易検査キットでは感染の有無を十分に判別できない可能性が高いです。
発熱が4日以上続いた場合は、PCR検査の対象者と判断されます。
発熱4日未満の状態で、
「国が検査してくれないから自分で簡易検査キットで調べよう」
となった場合、感度は7.1%しかありません。
そうなると簡易検査キットの存在意義は、医療崩壊してPCR検査の許容量がパンクした場合の代替手段くらいのものでしょうか。
PCR検査の基準
PCR検査の対象となる人の基準は以下のようになっています。
- 37.5度以上の熱が2日以上続く人(妊婦、高齢者、基礎疾患がある人)
- 37.5度以上の熱が4日以上続く人
- 強い倦怠感や呼吸困難がある人
新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596905.pdf
発熱はないけど味覚や嗅覚に異常がある人が検査を受けて陽性と判断されるケースも出てきています。
検査基準の見直しは必要になってきているのかなとは感じます。
検査対象の絞り込み基準には「その他 医師が検査を必要と認めた人」のような条項もあります。
新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について(依頼)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596426.pdf
現在は、発熱はないけど怪しい人について、現場の判断で検査するかしないかを決めている状況のようです。
きっちり線引きしてあげた方がいいのかなとは思います。
仮に「味覚障害が◯日以上」のような検査基準を追加した場合は、検査対象が広がり、検査数も増えるはずです。
そうなると、簡易検査が実用レベルではないようなので、PCR検査に頼ることになるでしょう。
医療リソースがパンクしないかは心配です。
まとめ
新型コロナウイルスの簡易検査キットは感度96.9%程度の精度。
ただし、発症してから13日以上待たないと、まともな検査結果は得られない。
発症後、検査をするタイミング別の感度
- ~6日目: 感度7.1%
- ~8日目: 感度25%
- ~12日目: 感度52.4%
- 13日目以降: 感度96.9%
発熱が4日未満の人を対象に検査をすると、感度は7.1%になる見込み。
感染者が100人いたら、7人は陽性(感染)と判定されるけど、93人は陰性(非感染)と判断されてしまうレベル。
正診よりも誤診の方が圧倒的に多いです。
PCR検査の代替として、微熱が数日続いている程度の人を対象に簡易検査を行うのは、この精度ではほぼ無意味だと思われます。
まだしばらくは、PCR検査の検査技師に頑張ってもらう必要がありそうです。
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